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「銀河英雄伝説」 [本・映画・アニメ・詩歌]

私の書庫の片隅を占めているのが、田中芳樹氏の小説「銀河英雄伝説」。1982年に第一巻が発売されたのですから、最近のものではないですし、私が手にしたのも確か2000年頃だったと思います。でも、累計1500万部を突破したロングセラーで、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。今回はこれをちょっと紹介させていただきます。

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タイトルから想像できるように、SF小説の範疇に有ると思われる本作品ですが、未来兵器やエイリアンが出てくる戦記ものかと言えば、読み始めると「後生の歴史家」という言葉がよく出てくるように、さながら架空の歴史小説のような体裁を取っています。なので、メカ的な興味やアクションシーンで読者を魅了するような小説ではなく、あくまで登場人物が織りなす人間像やドラマが主です。第1巻が発売された時は、第2巻以降の発売が未定であり、幸いにも好評を得たようで、その後全10巻が無事に発売された、とのこと。なので読んでみると、第1巻はそれ以後に比べて、よく言えば凝縮された、悪く言えばちょっと早走りしたような物語展開の感を受けます。
この小説の第一の特徴は、登場人物の多いこと。主役たる、ヤン・ウェンリーとラインハルトの言動で物語は進むのですが、それを取り巻く登場人物が多い。しかも、全編を通じて登場するような人物に関しては、第2巻以降は人物描写も細に至っていますから、これをまず把握することが、この作品を楽しむ秘訣だと思います。しかも、それぞれがなかなか味のある登場人物が多いです。
第二には、SF小説らしくない、現代にも通じる政治色が濃い物語であること。戦記もののドンパチはあまり目立たず、戦争という行為の背景にある政治思想や権謀術数を描き、そこに絡む人物像を織り込むことで物語が進む、といった感じです。専制政治を敷く銀河帝国と民主共和制を唱える自由惑星同盟、そして商業を中心としたフェザーン自治領の3つの勢力が舞台なのですが、スターウォーズのような単純な善対悪の関係で描かれるのではなく、最良の改革者を得た独裁政権と腐敗した民主主義の対決に宗教的なテロまでも加わり、それを宇宙という舞台に散りばめた設定で話が進みます。主役にしても、完全なるヒーローとして描かれている訳ではなく、人間臭く苦悩するし、その思考描写や会話から、現代にも通じる政治の矛盾や軍隊の有り方を思惟させられます。一方の主役であるヤン・ウェンリーの言葉を借りれば、「最良の専制政治は最悪の民主主義に勝るのか?」というテーマが、ここには横たわります。
こう書いてみると、極めて取っつきにくい小難しい小説・作品のように思えるでしょう。そんな方のためにお勧めなのがアニメです。実は私も、この作品に触れたのはアニメからでして、レンタルビデオ店で見つけた劇場版「銀河英雄伝説 わが征くは星の大海」が最初です。これを見て、面白そうだな、と思ってOVAシリーズを見始めたところ、夢中になってしまい、その後に小説を全巻購入して完読した、という次第です。OVAシリーズは、ほぼ原作に忠実に作られていますし(そのため、全110話という長さ)、人物描写に関しても同様。しかも、ほとんど登場人物一人に声優一人という配役の豪華さで、「銀河声優伝説」と揶揄されるほど(今では考えられませんね)。現代アニメのような、画的な凝った仕掛けや緻密な描写力は期待できませんが、その代わり長い会話と個性的な人物の配置で見せるアニメです。先にも書いたように、軍隊と政治色の強い作品なので登場人物は男性が殆どなのですが、その中で女性であるフレデリカ(後のヤン夫人)とヒルダ(後のラインハルト夫人)が、どちらも実に聡明な女性として輝いて見えます。
もちろん、子供向けではなく、完全に大人の視聴者に向けて作られています。膨大な登場人物も、視覚で受け入れれば易いですし、このOVAの出来具合なら、ココから入るのは邪道とは思いません。もう故人になられたヤン・ウェンリー役の富山敬さんや、メルカッツ役の納谷悟朗さんも、実に重厚な演技(声技)をされてます。レンタルビデオ店では旧作扱いの筈ですから、秋の夜長に楽しむのもイイかと。何といっても長い話ですから、一話や二話見たくらいでは、このスペースオペラと言われる物語の壮大さは分からないでしょうから、時間のある時にじっくりと見ても良いと思います。思わず涙するような作品ではありませんが、架空の歴史小説に身を投じ、「常勝の天才vs不敗の魔術師」の物語に現在を重ねて考えてみるのも一考かと。

銀河英雄伝説2.jpg


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wataru-wata

おはようございます!

ジュニアユース様とはアニメの趣味が近い(あの花~)のか、当方もこれはアニメから入った口です。

私がこのアニメを初めて見たのが、民主党が衆議院選挙で歴史的大勝を勝ち取ったあの夏でして、まさにヤン提督が言われた「最悪の民主主義」が自民党政権と重なって見えていた時です。

当方、恥ずかしいほどおバカさんなので、集中して見ないと話が分からなくなるのでものすごく真剣に見ましたよ(笑)

今もCSで毎晩2話、20時から放送されてるのですが、これを見るのが毎晩の楽しみです(^^)

by wataru-wata (2015-11-27 09:09) 

アプロ

活字中毒のアプロです(笑)。
雑誌連載中から読んでました。
アニメは見たことが無いです。
メインが中国物の作者さんなので民主主義の欠点が目に付くのかなとは思いますが。
by アプロ (2015-11-28 08:50) 

ジュニアユース

コメントありがとうございます。

wataru-wataさん、こんにちは。
よくこの小説がアニメ化されたなあ、と今になって思います。
そしてアニメ化されたお蔭で認知度が上がったのでは、とも。
最近では原作と違うストーリーや結末にするのが流行りみたいですが、そうではないこの作品は、
原作に忠実だからこそ、原作のよさが味わえると思います。

アプロさん、こんにちは。
活字中毒ですか? 情報がいろんな形で簡単に手に入る時代ですが、紙媒体は無くなってほしくないと思いますね。
今の日本に住む私たちには、民主主義が唯一絶対と思えるところがありますが、ベターであってベストではない、
と思わせるところがありますね。

by ジュニアユース (2015-11-28 09:55)