SSブログ

すそ野にて 7(ハーフタイム) [サッカーあれこれ]

すそ野にて7-ハーフタイム.jpg

県サッカー協会のカメラマンを務めている私は、年代性別問わず、いろんな大会に顔を出しては撮り続けています。多くの場合、観客や保護者の方々より近い場所から撮影するので、まず大会本部に行って撮影許可を頂くのですが、その際に機材などを大会本部に一時的に置かせていただく場合もあります(盗難防止の意味もあります)。ハーフタイムになれば選手と同じように、一時休憩や水分補給、メディアの交換等の為、その本部に戻るのですが、大きな大会の決勝戦以外では、役員の方やレフリーの方に交じって、そのような場を借りてお世話になっていることもあります。その本部ですが、主要大会の決勝戦はともかく、それ以外の試合(公式戦でも)では、両チームのベンチの中間に本部が設営してある場合が多いです。そうなると、ハーフタイムでの両チームの様子が意図しなくても伝わってきます。
中学生年代のある大会の準々決勝。前半を0-0で終えた両チームの選手達がベンチに引き上げてきます。Aチーム選手たちは、まず水分補給のために各自がボトルを手にします。そこでAチームの監督が言います、「みんな水分補給をしながら聞け」と。その手にはフォーメーションが描かれたボードが持たれていて、前半の戦い方の問題点を指摘していきます。選手たちはボトルを手にしたまま、監督の言葉を聞き続けています。その後は各個人の問題点や後半に向けた修正点を話し続けます。更に、この試合の意味や意気を鼓舞する言葉が延々と続きます。最後に、叱咤激励する言葉が出ると、主審からホイッスルが鳴り、後半に向けて各選手が小走りにピッチに向かって行きました。結局このAチームの監督は、10分間というハーフタイムの間、時にボードを指さし、時に大声で、時に動作も交えながら、ずっと喋り続けていました。それを傍らで見ていた私は、後半に向けてピッチに散っていくAチームの選手たちの表情を見て、監督の言ったことがどれだけ理解できたのか、後半に向けて自らがどうしようとしているのか、懐疑的になってしまいました。
では、もう一方の対戦相手のBチームはどうだったか。ベンチに戻ってきた選手たちが、まず水分補給をして、その後監督の前に集まったのは同じ。しかしその後Bチームの監督は、「勝ちたかったら後半頑張れ」その一言を告げるとベンチから出て行ってしまいました。残された11人の選手と控え選手達。その後、彼らから次のような会話が漏れ聞こえてきました。
「おい、ヤバイよ、監督怒っているよ」
「どうする?」
「俺思うんだけど、相手の7番より俺の方が絶対足が速いと思うんだ。だから裏にボール出してくれよ」
「そうだな、そうしよう」
「バックパスをするとき、キーパーから声をかけてくれるとノールックで出しやすい」
「そうか、分かった、そうする」
「相手の10番にボールが渡ると左右に散らされて、俺たち走らされるからキツイよな」
「そうだよ、そこはボランチが早めにプレスに行かないと」
「ウン、俺が付くからオマエは後ろでバランス取ってくれ」
「了解した」
そんな選手同士の会話が続いていたところに、Bチームの監督が戻ってきました。本部からその監督に、「メンバー交代ありますか?」との声が掛かりますが、「ありません」と答える監督。その刹那、「よし!」という小さな声が選手から出たことを私は聞き漏らしませんでした。その「よし」は、メンバー交代が無いなら今話したことが実践できる、という意味でしょう。ハーフタイムが終わってBチームの選手もピッチに散っていきました。
さてその後、この試合がどういう結果になったかは、ご想像にお任せします。
勿論この一試合だけを見て、私は結論めいたことを言うつもりはありません。中学3年生にとっては、2年半という時間の積み重ねがあって、この試合にたどり着いたのです。その間、多くの練習と試合を重ねて、監督と選手、選手同士の関係を築いてきたはずです。Aチームの監督にしても、多くは語らず選手に自由にやらせた試合もあったでしょうし、Bチームの監督も、練習では細かなことまで指導していたこともあったでしょう。年によってメンバーが変わるのが学生スポーツですから、去年と今年では指導方法が変わったかもしれません。いづれにせよ、其々のチームには其々のやり方・育成の仕方があり、それがチームカラーとなっているはずです。そのカラーが何色も有ってもおかしくないどころか、何色も有るべきだと思います。
今回私が目にした光景は、その一断片にしかすぎず、カメラマンとして両チームのベンチ近くにいたから得られたものです。では、ベンチから遠く離れた場所から見ていた保護者の方々には、どう映ったでしょう。Aチームの監督は熱心で、Bチームの監督は殆ど指導をしていない、と映ったかもしれません。この時期ですから、小学生やその保護者の方も見に来ていました。来年の進路を決める為でしょう。その彼らにはどう見えたでしょうか。
サッカーはチームスポーツです。一個人の能力の優劣だけで勝敗が決まるわけではありません。と同時に、一個人がチーム全体のカラーを決めることも難しい。こんな地方の県大会準々決勝など、全国的に見れば「取るに足りない試合」なのかもしれませんが、日本代表をサッカーピラミッドの頂点と考えるなら、その頂点を目指すには、この「すそ野」から昇り詰めないといけない。そう考えると、チーム選び・指導者選びは、なかなか「取るに足りない」ものではないな、と思ってしまいました。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 1

コメント 0

コメントの受付は締め切りました