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去る人 [巷の雑感・時の想い]

人は出会いの数だけ別れも経験する、と言います。先日、我が家の近所に住んでいた家族が引っ越していきました。両親と娘さんの三人家族。彼らは中国人です。
いや正確には、ご主人は日本国籍を取得してますから、厳密には中国人家族ではないのかもしれません。ご主人の方は、日常生活に不足無い程度の日本語を話せますが、奥さんは殆ど日本語を話せません。お子さんは日本で育ったお蔭で、両国語とも使えます。この子がいじめっ子に追いかけられた時に一喝してやった縁から、道端で出会えば挨拶する間柄になりました。その子が小学生の時でしたから、もう十年近く前の事です。
今でこそ中国人観光客の「爆買」が話題になりますが、彼らの生活は私の眼から見れば実に質素。ゴミの出し方を教えたこともありましたが、ゴミを出している姿を見たことはありませんでした。聞けば、なるべくゴミを出さない生活を心がけている、とのこと。私の説明不足だったのかもしれませんが、何に付け「自分たちは日本人じゃないから、後ろ指を差されないように」という意識が、彼らの生活の端々から窺えました。
小学生だった子が今春から社会人になると言います。何気なくこの街で暮らしていても、そう言われると月日の経つのを感じます。今月に入って日曜日になれば、三人で家具などを運び出し、それらが無くなった部屋を隅々まで掃除している姿が有りました。今どきの賃貸住宅は、退去時のルームクリーニング料金を請求されるのが常ですから、存外適当に済ませる人が多いのに、彼らは最後まで謙虚でした。
家族ぐるみの付き合いをした訳ではありませんし、それほど親密でもない間柄です。彼らが何故この異国の地に来たのか等まったく分かりません。ただ今回の引越しが、部屋が手狭になったから、ということで、この街での仕事は続けるということですから、そんなに遠くへ行く訳ではないようです。最後に別れる時、「またどこかで会うかもしれないね。元気でね」と言うと、足早に自販機から暖かい缶コーヒーを買ってきて、「コレ飲んでください、これまでいろいろお世話になりました」と、たどたどしい日本語と人懐っこい笑顔で渡されました。彼ら三人は、この缶コーヒーのような熱すぎない温もりと、ちょっとばかりの苦みを感じる寂しさを残して、笑顔で去っていきました。

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