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「VOYAGER ~日付のない墓標~ 」(林原めぐみver.) [本・映画・アニメ・詩歌]

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版4部作の最終作「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、多くのファンの期待にたがわない出来栄えだったと思います。様々な事象によって公開が延びていましたが、2021年に劇場公開され、そして2023年3月にDVD・Blu-ray Diskが発売されました。私は特にエヴァファンというほどでもないのですが、新劇場版は見てきたので(レンタルDVDで)、まあ最後まで付き合わないと、と思って、発売日に手に入れました(トップガンの時に失敗したので、今回はちゃんとBlu-ray Disc&4K Ultra HD Blu-ray版を購入)。きっと何回も見直すでしょうから、レンタルで一度見て済ませる訳にはいかないだろうなあ、との思いからです。ただそんな私ですので、ここで「エヴァンゲリオン」という作品についての記述は避けさせていただきます。この難解で奥深い作品についてドウコウ語れるだけの知識も無いので、それは現在もネット上で多くの方が語られているので、お任せします。私はただ、この作品(アニメとしては長い155分)の最終局面で流れた曲、「VOYAGER~日付のない墓標~」についてのみ、書かせていただきます。
予備知識無しで最初にこの作品を見た時、一番大事な最終局面でこの詩が流れました。「ウッ、これは・・・、コレが来るか!」とハッとしてしまいました。1984年発表の、松任谷由実(ユーミン)作詞・作曲の詩で、ユーミンファンであった私はスグに分かりましたし、そして歌っているのがユーミンご本人ではないことも分かりました。後で調べて見れば、声優の林原めぐみさん(綾波レイ&碇ユイ役)が歌われていました。この詩は、小松左京氏原作の映画「さよならジュピター」の主題歌として書き下ろされたもので、私はその映画も見た記憶が有るのですが、内容まで憶えておらず、特別な印象は無かった映画だったと思います。しかし、ある映画のために書かれた詩を、まったく別の映画の一番大事な場面で使うというのは、異例なことではないでしょうか。しかも、その一番大事な最終局面で、足かけ四半世紀(25年)続いた作品が終わる場面で、それにピッタリとシンクロした曲なのです。これには驚いてしまいました。これはつまり、エヴァンゲリオン全シリーズの監督で、この作品の総監督である庵野秀明氏が既にこの詩を知っていて、そして気に入っていているからこその事だと思います。

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最後の繰り返されるフレーズは、碇ゲンドウと碇ユイのことでしょうか、アスカとシンジでしょうか、シンジとレイでしょうか、それともミサトと加持リョウジのことでしょうか。それとも、それら全てでしょうか。
エヴァンゲリオンの主題歌といえば、宇多田ヒカルさんの曲がまず思い出されますし、この「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でも彼女の「One Last Kiss」が主題歌として最後に流れます。それはそれで作品イメージにピッタリだと思えます。ただ私はそれよりも、物語の中でこの詩が使われたこと、それに感動してしまったこと、そして今後はもしかしたらこの詩は、「さよならジュピター」より「シン・エヴァンゲリオン」の曲として多くの方の記憶に残るのではないか、と思ってしまったことのみをお伝えするに留めます。



VOYAGER~日付のない墓標~


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「あの頃のまま」 [本・映画・アニメ・詩歌]

物や自然物に対して「あの頃のまま」という言葉を使う時、それは性能や魅力が保全されている、失っていないという肯定的な意味合いで使われることが多いです。しかし、それが人間に対して、となると、進歩が無い、頑固で偏屈といったマイナスイメージを抱かせることがあります。特に急速に流れゆく現代に生きる人々にとっては、否応無くその変化に追従せねばならないのですから、「あの頃のまま」でいられること自体が難しいことなのかもしれません。

あの頃のまま.jpg

今回ご紹介するのは、ブレッド&バターの代表曲、1979年発表の「あの頃のまま」(作詞・作曲 呉田軽穂)です。

6時のターミナルで振り向いた君は
板についた紺色のスーツ
今でも気まぐれに街を行く僕は
変わらないよ ああ あの頃のままさ
去り行く若い時間を一人止めているようで
うらやましい奴だよと はじめて笑ってくれた
For Yourself For Yourself
そらさないでおくれ その瞳を
人は自分を生きていくのだから


まず最初に、駅でもステーションでもバスストップでもなく、「ターミナル」という言葉を使ったところに、この曲の作者の非凡さが窺い知れます。ターミナルとは、鉄道やバスが複数交差して発着する所であり、一路線の単なる途中駅でもなければ、そこで終わりの終着駅でもない。様々な方向へ行こうと思えば行ける、それがターミナルであり、実はこの言葉はこの詩の大事な部分であることが、聞き終わった後に気付きます。
学生から社会人となり、すっかりサラリーマンとなってしまった友と、今も敷かれた軌道を走らずにいる自分がターミナルで出会います。彼は「うらやましい奴」と言ったけれど、言われた方は少しばかり劣等感を抱いていたのかもしれません。

ネクタイ少し緩め 寂しげな君が
馴染みの店に腰据える夜は
日焼けした両足を投げ出して僕も
Simon and Garfunkel
ああ 久しぶりに聞く
人生の一節 まだ卒業したくない僕と
他愛ない夢なんか とっくに切り捨てた君
For Myself For Myself
幸せの形にこだわらずに
人は自分を生きてゆくのだから


湘南サウンドといえばサザンオールスターズをイメージする方が多いと思いますが、それより少し前に活動したブレッド&バターは、茅ヶ崎で育ち活動したこともあって、当時の”湘南ポップス”の代名詞的な存在であったようです。「日焼けした足」というフレーズが出てくるのは、そうした“湘南”をイメージさせるためでしょう。また、「サイモン&ガーファンクル」というデゥオも(知っている人は知っているでしょうが)、1970年代を代表するアメリカのデュオ歌手ですね。そうした彼ら二人が自由な青春を謳歌した時間を示すアイテムを並べて、今の彼と自分を対比させています。「寂しげな君」という言葉から彼は、あの頃とあまり変わらない自分との違いを感じ、変わってしまった自分に少しばかりの郷愁に似た感情を抱いたのかもしれません。

For Yourself For Yourself
そらさないでおくれ その瞳を
人は自分を生きていくのだから
For Myself For Myself
幸せの形にこだわらずに
人は自分を生きてゆくのだから


そんな彼に「瞳をそらさないで」と言い、彼の生き方を肯定します。そしてこの詩の主題が示されます、「幸せの形にこだわらずに」と。自分は自分の、貴方は貴方の考えや生き方があって、その先に幸せというものがあるのならば、それはたとえ同じではなくても「幸せ」には違いないのだから、と。繰り返される「For Yourself」と「For Myself」は、歩む先に人それぞれの幸せが有り、それが「自分を生きる」ということなのだと聞こえます。
この詩の彼はあの頃から変わってしまったと綴っていて、自分はあの頃のままと対称しているようですが、実は彼の目に映った自分も、本当はあの頃のままではないのかもしれません。なぜなら、たとえ一時期を共に過ごし、同じ価値観を持ち、同じ方向を見て進んでいたとしても、月日と共に人は変わり、周りの環境も変わり、それ故に人は変わっていくのならば、目指す道筋は変わって当然であり、誰しもいつまでも「あの頃のまま」という訳にはいかないからです。ただ、過去は変えられない。共有した過去の「あの頃」は決して変えられないし、でも現在は「あの頃」の延長線上にあるのです。
人はその生きる道すがら、様々な選択をして歩んでいきます。それが、自分を生きていく、ということなのでしょう。けれど、フッと立ち止まって振り返った時、あの頃のままの部分が見つかれば、それは大切にしなければならないものかもしれません。







呉田軽穂とは・・・


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「水平線」 [本・映画・アニメ・詩歌]

2022年・令和4年も残すところ数日となりました。このブログを見に来ていただいている方々にはご存知の事かもしれませんが、毎年最後に、私の琴線に強く触れた曲を私見を交えてご紹介しています。ただ、どうもこの歳ですから、一昔前の曲が多くなりがちですが、今年最後にご紹介するのは、比較的新しい曲です。2020年8月にYouTubeでミュージックビデオが公開され、2021年8月にリリースされた、日本のバンド「back number」の「水平線」です。

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出来るだけ嘘は無いように どんな時も優しくあれるように
人が痛みを感じた時には 自分の事のように思えるように


この詩の冒頭は、誰が聞いても正しいと思える真理を伝えています。けれど私は、この詩を最後まで聞くと、このような正しい道理を訴える詩ではないと思います。

正しさを別の正しさで 失くす悲しみにも出会うけれど

冒頭に続くこの一文こそ、この詩の主題が隠されているのではないか、と思ってしまいました。

水平線が光る朝に あなたの希望が崩れ落ちて
風に吹き飛ばされる欠片に 誰かが綺麗とつぶやいてる
悲しい声で歌いながら いつしか海に流れ着いて
光って あなたはそれを見るでしょう


情景描写の歌詞が続きます。ここで出てくる「あなた」とは、この詩の主人公であり、この詩を聞くあなたです。あなたの希望が叶わずに悲しい声を上げているのに、誰かはそれを綺麗と言う。そこに相反する「正しさ」があること、一つではない、見る人、見る方向で変わってくること、それが連想されます。

自分の背中は見えないのだから 恥ずかしがらず人に尋ねるといい
心は誰にも見えないのだから 見えるものよりも大事にするといい
毎日が重なる事で 会えなくなる人もできるけれど


この二番の冒頭も、誰が聞いても正しいと思える真理を謳いながら、それでも意見や趣向の違いから相容れない人達ができてしまう不条理が有ることを説いています。

透き通るほど淡い夜に 貴方の夢が一つかなって
歓声と拍手の中に 誰かの悲鳴が隠れている
耐える理由を探しながら いくつも答えを抱変えながら
悩んで あなたは自分を知るでしょう


主人公の心理描写の歌詞が出てきました。今度は主人公のあなたの希望や夢が叶って喜んでいる、喜んでもらっている。でもその陰で、悲嘆にくれる誰かもいる。それは一番で歌った、希望が叶わなかったあなたと同じ。その姿を知ってしまったあなたは自問自答し、悩む姿が思い浮かばれます。

誰の心に残る事も 目に焼き付く事もない今日も
雑音と足音の奥で 私はここだと叫んでいる


胸打つ正しい言葉、心理、偉人の言葉、格言、そんな心に響く言葉を受けて強く生きることもあれば、日常の雑多な流れに押されて、多くの他人の正義に流されて行ってしまう自分もいる。ただそこであなたは、叫んでいるのです。

水平線が光る朝に あなたの希望が崩れ落ちて
風に吹き飛ばされる欠片に 誰かが綺麗とつぶやいてる
悲しい声で歌いながら いつしか海に流れ着いて
光って あなたはそれを見るでしょう
あなたはそれを見るでしょう


私は、この詩の主題は「正しさは一つではない」だと思いました。夢や希望を持った多くの人達の中で私達は生きています。そしてその大部分が、正しい道を歩もうとしています。けれど、その正しさが別の正しさと衝突することがある。いや常にではないでしょう。それでも、自分の正しさを押し通せないことがある。それを阻むものが悪意や間違った事なら、頑として戦うこともできますが、それが他人の夢や希望や別の真っ当な正しさと分かった時、悔しさ、不満、どうしようもない憤りを胸に抱くことがあります。自ら信じた「正しさ」を握りしめたまま、立ち止まることがあります。それでも、たとえあなたの夢や希望が崩れ落ちて欠片となって散ったとしても、今は無理でも、それを見つめて、前を向いて進むことを説いているように思えます。
この詩のタイトルは「水平線」です。なぜ水平線なのか。見上げる広大な空と生命の母なる海、言い換えればどちらも私達を優しく包む象徴です。その二つが接するところが水平線です。空を一方の正しさとすれば、海もまた別の正しさと例えているのでしょう。空と海が同化しないように、正しさは一つではない。その境界線であなたは、時に喜び、時に苦しみ、どうしようもない気持ちにさせるかもしれない。けれど、降った雨が大地を巡り海に流れ着くように、いつしかそれは光る欠片となり、前に進む糧となる、そう聞こえました。
この詩が生まれたきっかけは、令和2年のインターハイ(全国高校総体)がコロナウィルス感染防止のために中止になったことらしいです。大会出場を夢見て日々汗を流し、鍛錬して来た選手たちは、何の罪も無い善者達です。しかし、その心根を汲み取りながらも中止を決断せねばならなかった大会関係者も、ギリギリまで苦悩したことでしょう。どちらも悪者でも、愚者でもない。しかしそこに、両者に、正しさがあったと思います。
私は地方でサッカーを撮っています。なので、各種大会の決勝戦を撮りに行きます。「試合を戦う」と言いますが、どちらかが悪いのでもなく、憎いわけでもありません。しかし、勝者は歓喜の声を上げ、敗者は膝を屈し涙します。そんな光景を何度も見てきました。どちらかの夢が叶い、どちらかの夢がついえる瞬間を何度も見てきました。そしてそのどちらも、美しいと思いました。
今年一年を振り返る時期になりました。今年みなさんは自らが正しいと信じ、望み挑んだことが達成できたでしょうか。もしそれができなかったとしても、それが悪行や悪意ではなく、別の正しさ故であるならば、悲観することは無いと思います。それはいつかきっと光って、光って見えると信じるからです。今年一年、このつたないブログにお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。この記事を今年の締めとさせていただきます。来る年が、みなさまの光輝く一年になりますよう、お祈り申し上げます。



back number「水平線」


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