サッカー撮影とは、主に試合中の選手の写真を撮ることであり、その試合中の選手は、105m×68mのグランド(中学生以上の場合)を不規則に動き回ります。これは、撮影者と被写体である選手との距離が常に変化している事であり、この状況では可変焦点距離のズームレンズが適していることは容易に想像がつきます。しかし(皆さんご存知のとおり)私は現在、単焦点のヨンニッパ(EF400mm F2.8 L IS)と1D MarkⅣ(1D4)の組合せを主として使っていますが、その理由の大半は、このレンズの描写力とAF速度に由来しています。とは言え、固定焦点距離のレンズで前後左右に動き回る被写体を撮るのですから、捉えられる被写体の大きさは変化します。トリミングを前提には撮りたくないのですが、実際に「使う」際にはトリミングを使用することも少なくありません。もちろんその際でも、ある程度以上の大きさで被写体である選手を捉えることは必須です。

以前私は、「被写体が動き回るのだから、許される範囲で、撮影者もポジションを変えるべき」という旨のことを書きました。上の図は私が上記の機材で撮る際、使える画が得られる範囲を黄色で表したものです。タッチライン沿いで撮れるのであれば(ラインから5mは離れなければならない)、たとえ単焦点レンズを使っていたとしても自らが動くことで、グランドの6割程度はカバーできます(向こう側のタッチライン沿いの攻防はあえて捨てます)。手前のタッチライン沿いの攻防は近すぎて撮れないのでは、と思われるかもしれませんが、自分が左右に動くことで距離を稼げますから、十分撮影可能です(下の画のように)。

この1D4+ヨンニッパでセンターサークル中央の選手を撮れば、下の画のような大きさで捉えられます。



この状況なら、今まで通りに撮り続けられますが、しかし昨今では、ちょっと事情が変わりつつあります。主催者によって、マッチコミッショナーによって、試合のレベルによって異なるのですが、地方で行われるとはいえ全国規模の大会・試合では、撮影場所が指定されることが多くなってきました。その撮影場所は主に下図で示した青エリアであることが多いです。(タッチライン・ゴールラインから5m以上離れる)。ゴール裏は試合中は立ち入り禁止ですから、大きく移動はできないことになります。こうなると、従来のタッチライン沿いで移動しながら撮るのと比べて、選手を「使える」レベルで捉えられるエリアが、ぐっと狭くなることがお分かりいただけるでしょう。


実際に撮ってみた画を載せます(機材は同じ、1D4+ヨンニッパ)。センターサークル中央の選手を撮っていますが、タッチライン沿いから撮った上の画に比べて、明らかに小さいことが分かると思います。



「使える大きさで選手を捉えられる範囲が狭い」「被写体が小さいと、ピント合わせが難しい」という点がご理解いただけると思います。撮りたいチームがはっきりしている場合は、何とかなるかもしれない。しかし、どちらのチームも、できる限り多くの選手を万遍なく撮りたい、という要求は不可能に近づきます。長方形のグランドの短辺側に居れば、手前のチームは選手の背中ばかりだし、ならば向こうから攻めるチームを主に撮ろうとすれば、攻撃的選手が攻め込んだ画は撮れても、DFやGKはあまりに遠い(小さい)。実際に撮ってみれば、もう少し焦点距離が欲しくなります。


ではそこで、もう少し焦点距離を伸ばして撮ってみることにします。私が用いた手段は、レンズは同じヨンニッパを使いながら、ボディを7D MarkⅡ(7D2)の替えることでした。これでフィルム換算で、520mmから640mmへと120mmほど長くなります。下の図⑥で、黄色の範囲が少し広がりました。同じようにセンターサークル中央の選手を撮れば下の画のような大きさになりますから、向こう側から手前に攻めてくるチームが少し撮り易くなります。



ただ当然、ゴールラインに近づく程に選手は大きく捉えられますから、選手が画面からはみ出る程に大きくなることもありますし、何といっても(120mmとはいえ)焦点距離が長くなる事は画角が狭くなることとイコールですから、不規則に動く被写体を捉え難くなります。




この近接用に、1D4+EF70-200mm F2.8 L IS を手持ちで併用してみました。下の画がそれですが、プレイが連続するサッカーに於いて、2台の併用はなかなか難易度が高い。かなり慣れが必要だと実感しました(1D4+ヨンニッパ+1.4xと7D2+70-200の方が良かったかもしれないかな)。


私がサッカーを撮り始めたころに比べれば、デジタルになり価格がこなれた今は、グランド脇でカメラを構えている父兄の方を見かけることはそう珍しくなくなりました。ただ、世の流れがそういった方向(ゴールライン沿いの固定ポジション)に向かっていくならば、泣き言を言っても仕方ありません。これに対処して工夫・努力しなければなりません。与えられた条件で結果を残すのがカメラマン。サッカーというスポーツ自体は変わらなくても、それを撮る行為は、機材のチョイスも含めて、曲がり角に来ているのかもしれないと思いました。