高校野球の頂点は、やはり甲子園での優勝でしょう。多くの、いや殆どの高校球児たちがそれを目指します。故に私は、野球と言えば夏のイメージがあります。対して高校サッカーにも頂点が有ります。今年で92回目を迎えた、全国高校サッカー選手権大会です。年末から始まる全国大会、今年からは改装工事のため国立競技場ではないですが(埼玉スタジアム2002)、やはりその頂点を目指して、今各地で地方予選が行われていることと思います。故に私には、以前からサッカーには冬のイメージが拭いきれません。
野球の甲子園大会もNHKが全戦テレビ放送します。この高校サッカー選手権も、全戦とはいかないまでも、テレビ放送されますから、きっとご存知の方も多いことでしょう。この時期に高校サッカーの頂点の大会を持ってくることの是非については、以前もこのブログで触れたことが有りますが、いづれにせよ、高校サッカー選手にとっては最後の大会であり、それは敗退が引退を意味します。よって、我が子の最後のユニフォーム姿を見ようと、多くの保護者の方の姿を、地方大会の1回戦から見受けられます。高校進学率は、今は約97%だそうです。そしてその高校でサッカー部に所属する者たちの殆どが、中学生・小学生でサッカー経験者です。時に練習の送り迎えをしたり、遠征や大会で声援を飛ばしたり、そうして我が子と一緒になって歩んできた保護者にとっては、高校最後の大会・試合というのは、察するに余りあることです。何故最後なのか。いやもちろん、大学に進学しても、社会人となっても、サッカーを続ける子達は居ます。けれど、小学生から中学生、中学生から高校生、とは違って、高校生から先に行ってまでも、同好会や遊びではなく本格的にサッカー選手として歩む者たちの比率はグッと低いと言えます(はっきりした資料が手元にないのですが)。Jリーグができ、プロのサッカー選手が存在する今でも、です。野球も同じかもしれませんが、全国大会に出場するような選手達はそうではないかもしれません。しかし彼らは、全体として見れば圧倒的少数であり、他の敗者達の方が圧倒的多数なのです。その圧倒的多数の敗者達は(全てとは言い切れませんが)、この高校年代最後の大会でプロや日本代表になる夢をあきらめます。サッカーというスポーツは、その後生涯の友となるでしょう。でも、自分のこれから先の人生設計を考えねばならない時でもあるからです。
さて、地方予選の1回戦や2回戦で敗退してしまうような高校サッカー部の選手達。当然彼らは未熟です。サッカーの技術もチームとしての強さもありません。けれど彼らにも強い想いがあります。ドラマが有ります。それは、他の人を感動させるようなものではないかもしれない。全国大会に出場するような選手に比べれば、ちっぽけなものかもしれない。それでも、有るのです。地方大会の1回戦や2回戦が天然芝の立派なグランドで行われることはないでしょう。砂にまみれ、ドロに汚れながら、全力を出し切っても遠く及ばなかった勝利。そんな彼らにも、称賛の拍手を送る価値はきっと有ると、私は毎年この大会を撮っていて思うのです。望遠レンズを使い、ファインダーを通して見る彼ら。汗を飛ばして走り、必死の形相で相手に立ち向かい、敗戦が決まった瞬間に思わず緩む瞳。それは、未熟で、ちっぽけで、他人から見れば何の感動も無いものかもしれないけれど、撮る価値はきっと有る。私は毎年、このサッカーピラミッドのすそ野に居て思うのです。
この十数年の間に、日本代表を頂点とするサッカーピラミッドは随分大きくなりました。それはすなわち、すそ野が広がったことをも意味します。逆に言えば、すそ野が広がったからこそ、頂が高くなったとも言えます。そのすそ野に佇み、そこに撮る価値を見出せないようであれば、カメラマンとしての私も引退です。けど今は、まだまだ撮り続けて行こうと思っています。