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「男たちの旅路」(前編) [本・映画・アニメ・詩歌]

「男たちの旅路」、これはNHKで放送されたTVドラマです。しかし、放送されたのが1975年~1979年(スペシャルは1982年)ですから、知っている・見たことがある方は多分少ないのではないでしょうか。それ故、ココで取り上げるのはどうかな、と思ったのですが、あまりテレビを見ない私が強く印象に残っているということで、書かせていただきますが、興味のない方はスルーしてください。

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戦争末期の特攻隊の生き残りで、今は警備会社に勤める吉岡司令補を演じる鶴田浩二さん(故人)が主人公です。それに絡む戦後世代の杉本陽平を演じる水谷豊さん、島津悦子を演じる桃井かおりさんを中心とした若者たち(他に、森田健作さんや柴俊夫さん、清水健太郎さん等)が、様々な事件にぶつかりながらも、世代間の価値観相違をあぶりだし、時に社会問題にも触れる、骨太のドラマです。一話完結ですが、その一話は全て70分以上あります。NHKですから、途中でCMも挟まりません。故に、話の密度と緊張感から、TVドラマとしては1話でも結構な見ごたえ感が有ります。何より、山田太一さん(故人)の脚本が秀逸で、セリフの端々まで素晴らしく、しかもそれに役者さんたちが負けていません。第一部3話が放送されて反響が大きかったようで、中高年層はもちろん、劇中の若者たちと同じような年代の視聴者からも、吉岡司令補を支持する便りが多く届いたそうです(当時はネットも携帯電話も無い時代ですから手紙ですね)。第四部まで作られ、最後にスペシャル版(これは120分)まで作られました。
主人公の警備会社に勤める吉岡司令補(鶴田浩二)は、自分にも他人にも厳しく、筋の通らぬことを嫌い、常に正論のみで行動する元特攻隊員の戦中派の大人です。これを演じさせたら、まず鶴田浩二さん以外の配役は考えられなかったでしょう。実際、脚本を書いた山田洋二さんは、演者を決めて、それをイメージしてから脚本を書くことで有名でしたから、この作品もきっとそうなのでしょう。そして、随所に吉岡司令補の説教調のセリフが出てきます。説教と言えば、もう少し後(本作の数年後)に話題になる「金八先生」の武田鉄矢さんを思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、金八先生は基本的に先生から生徒に対して、つまり上から下への教育言語となっています。それが教育課程を終えた大人が再度見て、認識を改めたり襟を正す好機となったりするので、多くの視聴者の指示を集めたのでしょう。しかし吉岡司令補の説教は、戦中派の大人が若者に対してです。歳は違えど、既に成人して社会人として働き、自らが判断して行動できる大人が大人に告げる説教です。説教である以上、両者の考えや価値観に差異が生じたからなのですが、大人の間でこういったものが難しいことであることは、きっと皆さんも実体験を踏まえて同意していただけると思います。けれど劇中の吉岡司令補は、まったく若者に媚びない、迎合しない、頑として自らの正義を貫いて、若者たちの反論を跳ね返す。そして、視聴者に考えや思いを抱かせて、一話が終わるのです。
それに対して戦後派の若者として水谷豊さんと桃井かおりさんが配置されています。どちらもまだ当時は若手の域を出ない役者さんでしたが、主人公に相対する存在感はしっかり描かれています。水谷豊さんは現在の「相棒シリーズ」のような落ち着いた大人ではなく、当時はまだ20代前半の「傷だらけの天使」(これも憶えている人は少ないだろうなあ)のアキラそのままな感じの、まくしたてるような早口で、チャラチャラした軽い性格の若者を演じています。桃井かおりさんは、当時20代前半の美しさ絶頂期で、どこか年齢不相応の色気があり、あのアンニュイな話し方そのままに、ちょっと斜に構えた若者を演じています。この世代も背景も異なる警備会社の社員たちが、仕事の中で出くわした疑問や思いや考えに対し、葛藤しながらも真面目に向き合い、出口を探す道筋が描かれます。時に弱者に対して優しさに流されてしまう若者たちに対して、頑として正論法的な意見と行動を貫く(当時でも数少ないと思われる)戦中派の大人との対比が、見る者に課題を突き付けてくるドラマです。この視聴後に深く考えさせられるTVドラマという点が、きっと私に強く残った理由だと思いますし、TVドラマ史に残る名作シリーズだと言われる所以だと思います。

あ~、まだ書き足りない。次回もう少しだけ書かせてください。





第一部第1話の最後の場面です。


YouTubeではなかなか見つけられませんでした。NHKさんはなかなか厳しいので、こういった動画はいつ削除されるか分かりませんので、ご了承ください。

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