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「男たちの旅路」(後編) [本・映画・アニメ・詩歌]

前回の記事でへきえき(辟易)している方もいらっしゃるでしょうが、どうもまだ書き足りないので(スミマセン)もう少しだけ。

放送当時は昭和50年代前期という戦中派がまだ街に残っていた時代です。ドラマで出てくる風景や扱う道具・設備などは、現代の目から見ればレトロ感があって、画全体が少し暗くて華やかさは皆無です。特に吉岡司令補(鶴田浩二)や島津悦子(桃井かおり)の住んでいるアパートなどは昔の下宿屋といえるような狭くて質素で、電話(もちろん携帯ではない)も無いです。車に乗るシーンも出てきますが、車がまだ贅沢品の域を出ない頃ですし、まあ懐かしい車種が登場します。当時の私はまだ高校生でしたが、ああこの頃はそうだった、と懐かしんでしまいます。
第一部~第四部まで一部3話づつ作られ、最後にスペシャル話が加えられ、全13話で終了しています。特に評価の高かったのは、老人世代の想いと寂しさを扱った「シルバー・シート(第三部1話)」と身体障害者の境遇を真正面から捉えた「車輪の一歩(第四部3話)」で、この2話は繰り返し再放送されているらしいですから、見たことのある方もいらっしゃるかもしれません。確かにこの2話は見終わった後、考えさせられ、胸に詰まる思いを抱かずにはいられません。疑いようのない名作だと思います。

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でも、そんな社会問題に相対した話だけでなく、吉岡司令補(鶴田浩二)に好意を抱きながら白血病で亡くなる島津悦子(桃井かおり)を描いた「別離(第三部3話)」も、私は思わず落涙してしまいました。それまで生真面目に、厳格に、古風な元特攻隊員の大人を演じてきた鶴田浩二さんを、その言動を多くの視聴者が支持していたからこそ、このシリーズが好評を博していたにも関わらず、脚本家の山田太一さんは見事に壊していくのです。そこに山田太一さんの構成力・凄さを感じざるを得ません。そして、桃井かおりさんの不器用だけどストレートに心をぶつける姿は実にチャーミングで、彼女でなければこの悲恋を演じられなかったでしょう。更に、ゴダイゴのミッキー吉野さんのBGMが何とも悲しい。脚本家山田太一さんは、この「別離」を描くための第三部だったのでは、と思ってしまいます。
山田太一さんの言によれば、この第三部終了でこのシリーズも終えるつもりだったそうです。けれど、視聴者からの反響の大きさからNHKの製作側が強く押した結果、第四部が放映されました。個人的には、第三部で終わらせるような意図を感じていましたし、それに納得もしていたつもりでした。そこで第四部の開始は、それではそれまでの吉岡司令補の言動を否定することになりはしないか、との思いもあって、第四部の放送にはちょっと期待しつつも複雑な気持ちでした。しかしそこは山田太一さんです。第三部の最後で放浪の身へ落とした吉岡司令補を復帰させるのは、何らかのエポックが必要です。そこで第四部第1話の「流氷」です。このシリーズのもう一人の重要人物、杉本陽平(水谷豊)が真冬の根室まで吉岡司令補を探しに行く話です。ここでは攻守逆転、杉本陽平が吉岡に訴えかかるシーンが秀逸です。自分より遥かに大人なはずの吉岡(鶴田浩二)に対して、若者らしい思いを精一杯ぶつける陽平(水谷豊)の迫真のセリフ。吉岡の復帰は(そしてこの第四部は)これ無くしてはできなかった、と思わせられる無くてはならない話です。今回、発売されている台本集を購入して読んで、再度ビデオを見て、この活字を演技する役者さんの凄まじさを感じました。彼なりの落とし前をつけた後、きっと消えることを決意していたのでしょう、杉本陽平は以後、このシリーズから去っていくのでした。無駄なシーン・カットを全く作らない脚本の凄さに脱帽です。
最終話になったスペシャル版を見た時、私は「これって本当に必要な話だった?」と思ってしまいました。けれど見返して気付きました。この話は、「本当の勇気とは?」という話です。吉岡司令補(鶴田浩二)はこのシリーズの最初から最後まで、戦争・特攻隊・戦友への想いを抱きながら、いや背負いながら、自らを律して生きてきました。そして今話の終盤に戦友(故ハナ肇)と偶然出会い、昔話をします。昔の若者は勇気が有った、国や家族を守るために自分を捨てて戦った、と彼は言います。それに対して吉岡司令補は、「本当にそうだったのか? 我々に勇気が有ったのだろうか?」と返します。その言葉を発する吉岡司令補に、このシリーズ当初の頑なに思いつめた姿から、若者達と触れ合うなかで変化した心情を読み取ることができます。第四部第1話で杉本陽平(水谷豊)に突き付けられた「まだ本当のことを言っていないじゃないか」という言葉に対する返答だったのではないか、と思います。そして、この反戦の想いを脚本家・山田太一が語らせているのだと気付きました。
いつの頃だった忘れてしまいましたが、もう一度見たい!と思ってレンタルビデオ店を廻ったのですが、見つけられず、結局NHKエンタープライズ社からDVD全5巻(NHKさん29700円は高価過ぎでしょう)を購入しました。そして、一話一話しっかりと見直しました。吉岡司令補のような人は、たとえ昭和年代でも居そうで居ない、でも居て欲しい人物だと再度思ってしまいました。山田太一さんの不朽の名作です。「不朽」とは色あせないこと、時が移り時代が変わり価値観が代わり、見る人が、その意識が変わっても、朽ち果てない普遍性を持っているということ。見る者に何かを残す名作であり続けるこの作品、このDVDは私の宝物です、間違いなく。

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長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。



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「男たちの旅路」(前編) [本・映画・アニメ・詩歌]

「男たちの旅路」、これはNHKで放送されたTVドラマです。しかし、放送されたのが1975年~1979年(スペシャルは1982年)ですから、知っている・見たことがある方は多分少ないのではないでしょうか。それ故、ココで取り上げるのはどうかな、と思ったのですが、あまりテレビを見ない私が強く印象に残っているということで、書かせていただきますが、興味のない方はスルーしてください。

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戦争末期の特攻隊の生き残りで、今は警備会社に勤める吉岡司令補を演じる鶴田浩二さん(故人)が主人公です。それに絡む戦後世代の杉本陽平を演じる水谷豊さん、島津悦子を演じる桃井かおりさんを中心とした若者たち(他に、森田健作さんや柴俊夫さん、清水健太郎さん等)が、様々な事件にぶつかりながらも、世代間の価値観相違をあぶりだし、時に社会問題にも触れる、骨太のドラマです。一話完結ですが、その一話は全て70分以上あります。NHKですから、途中でCMも挟まりません。故に、話の密度と緊張感から、TVドラマとしては1話でも結構な見ごたえ感が有ります。何より、山田太一さん(故人)の脚本が秀逸で、セリフの端々まで素晴らしく、しかもそれに役者さんたちが負けていません。第一部3話が放送されて反響が大きかったようで、中高年層はもちろん、劇中の若者たちと同じような年代の視聴者からも、吉岡司令補を支持する便りが多く届いたそうです(当時はネットも携帯電話も無い時代ですから手紙ですね)。第四部まで作られ、最後にスペシャル版(これは120分)まで作られました。
主人公の警備会社に勤める吉岡司令補(鶴田浩二)は、自分にも他人にも厳しく、筋の通らぬことを嫌い、常に正論のみで行動する元特攻隊員の戦中派の大人です。これを演じさせたら、まず鶴田浩二さん以外の配役は考えられなかったでしょう。実際、脚本を書いた山田洋二さんは、演者を決めて、それをイメージしてから脚本を書くことで有名でしたから、この作品もきっとそうなのでしょう。そして、随所に吉岡司令補の説教調のセリフが出てきます。説教と言えば、もう少し後(本作の数年後)に話題になる「金八先生」の武田鉄矢さんを思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、金八先生は基本的に先生から生徒に対して、つまり上から下への教育言語となっています。それが教育課程を終えた大人が再度見て、認識を改めたり襟を正す好機となったりするので、多くの視聴者の指示を集めたのでしょう。しかし吉岡司令補の説教は、戦中派の大人が若者に対してです。歳は違えど、既に成人して社会人として働き、自らが判断して行動できる大人が大人に告げる説教です。説教である以上、両者の考えや価値観に差異が生じたからなのですが、大人の間でこういったものが難しいことであることは、きっと皆さんも実体験を踏まえて同意していただけると思います。けれど劇中の吉岡司令補は、まったく若者に媚びない、迎合しない、頑として自らの正義を貫いて、若者たちの反論を跳ね返す。そして、視聴者に考えや思いを抱かせて、一話が終わるのです。
それに対して戦後派の若者として水谷豊さんと桃井かおりさんが配置されています。どちらもまだ当時は若手の域を出ない役者さんでしたが、主人公に相対する存在感はしっかり描かれています。水谷豊さんは現在の「相棒シリーズ」のような落ち着いた大人ではなく、当時はまだ20代前半の「傷だらけの天使」(これも憶えている人は少ないだろうなあ)のアキラそのままな感じの、まくしたてるような早口で、チャラチャラした軽い性格の若者を演じています。桃井かおりさんは、当時20代前半の美しさ絶頂期で、どこか年齢不相応の色気があり、あのアンニュイな話し方そのままに、ちょっと斜に構えた若者を演じています。この世代も背景も異なる警備会社の社員たちが、仕事の中で出くわした疑問や思いや考えに対し、葛藤しながらも真面目に向き合い、出口を探す道筋が描かれます。時に弱者に対して優しさに流されてしまう若者たちに対して、頑として正論法的な意見と行動を貫く(当時でも数少ないと思われる)戦中派の大人との対比が、見る者に課題を突き付けてくるドラマです。この視聴後に深く考えさせられるTVドラマという点が、きっと私に強く残った理由だと思いますし、TVドラマ史に残る名作シリーズだと言われる所以だと思います。

あ~、まだ書き足りない。次回もう少しだけ書かせてください。



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新緑 2024 [日々の徒然]

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暑くもなく、寒くもなく、私が一年で一番好きな季節です。

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ゴールデンウィークはいかがでしょうか。
私はもちろん、サッカー撮影でした。

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我が家の周り、サッカー場近くの公園、ちょっと歩けばみずみずしい緑が目に留まります。
5月4日を「みどりの日」にしたのは、なかなか粋な命名だと思ってしまいました。

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そして、本日5月5日は二十四節気の「立夏」です。
新緑から活力をいただき、今年も酷暑であろう夏に備えたいと思います。

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