SSブログ

「水平線」 [本・映画・アニメ・詩歌]

2022年・令和4年も残すところ数日となりました。このブログを見に来ていただいている方々にはご存知の事かもしれませんが、毎年最後に、私の琴線に強く触れた曲を私見を交えてご紹介しています。ただ、どうもこの歳ですから、一昔前の曲が多くなりがちですが、今年最後にご紹介するのは、比較的新しい曲です。2020年8月にYouTubeでミュージックビデオが公開され、2021年8月にリリースされた、日本のバンド「back number」の「水平線」です。

水平線.jpg

出来るだけ嘘は無いように どんな時も優しくあれるように
人が痛みを感じた時には 自分の事のように思えるように


この詩の冒頭は、誰が聞いても正しいと思える真理を伝えています。けれど私は、この詩を最後まで聞くと、このような正しい道理を訴える詩ではないと思います。

正しさを別の正しさで 失くす悲しみにも出会うけれど

冒頭に続くこの一文こそ、この詩の主題が隠されているのではないか、と思ってしまいました。

水平線が光る朝に あなたの希望が崩れ落ちて
風に吹き飛ばされる欠片に 誰かが綺麗とつぶやいてる
悲しい声で歌いながら いつしか海に流れ着いて
光って あなたはそれを見るでしょう


情景描写の歌詞が続きます。ここで出てくる「あなた」とは、この詩の主人公であり、この詩を聞くあなたです。あなたの希望が叶わずに悲しい声を上げているのに、誰かはそれを綺麗と言う。そこに相反する「正しさ」があること、一つではない、見る人、見る方向で変わってくること、それが連想されます。

自分の背中は見えないのだから 恥ずかしがらず人に尋ねるといい
心は誰にも見えないのだから 見えるものよりも大事にするといい
毎日が重なる事で 会えなくなる人もできるけれど


この二番の冒頭も、誰が聞いても正しいと思える真理を謳いながら、それでも意見や趣向の違いから相容れない人達ができてしまう不条理が有ることを説いています。

透き通るほど淡い夜に 貴方の夢が一つかなって
歓声と拍手の中に 誰かの悲鳴が隠れている
耐える理由を探しながら いくつも答えを抱変えながら
悩んで あなたは自分を知るでしょう


主人公の心理描写の歌詞が出てきました。今度は主人公のあなたの希望や夢が叶って喜んでいる、喜んでもらっている。でもその陰で、悲嘆にくれる誰かもいる。それは一番で歌った、希望が叶わなかったあなたと同じ。その姿を知ってしまったあなたは自問自答し、悩む姿が思い浮かばれます。

誰の心に残る事も 目に焼き付く事もない今日も
雑音と足音の奥で 私はここだと叫んでいる


胸打つ正しい言葉、心理、偉人の言葉、格言、そんな心に響く言葉を受けて強く生きることもあれば、日常の雑多な流れに押されて、多くの他人の正義に流されて行ってしまう自分もいる。ただそこであなたは、叫んでいるのです。

水平線が光る朝に あなたの希望が崩れ落ちて
風に吹き飛ばされる欠片に 誰かが綺麗とつぶやいてる
悲しい声で歌いながら いつしか海に流れ着いて
光って あなたはそれを見るでしょう
あなたはそれを見るでしょう


私は、この詩の主題は「正しさは一つではない」だと思いました。夢や希望を持った多くの人達の中で私達は生きています。そしてその大部分が、正しい道を歩もうとしています。けれど、その正しさが別の正しさと衝突することがある。いや常にではないでしょう。それでも、自分の正しさを押し通せないことがある。それを阻むものが悪意や間違った事なら、頑として戦うこともできますが、それが他人の夢や希望や別の真っ当な正しさと分かった時、悔しさ、不満、どうしようもない憤りを胸に抱くことがあります。自ら信じた「正しさ」を握りしめたまま、立ち止まることがあります。それでも、たとえあなたの夢や希望が崩れ落ちて欠片となって散ったとしても、今は無理でも、それを見つめて、前を向いて進むことを説いているように思えます。
この詩のタイトルは「水平線」です。なぜ水平線なのか。見上げる広大な空と生命の母なる海、言い換えればどちらも私達を優しく包む象徴です。その二つが接するところが水平線です。空を一方の正しさとすれば、海もまた別の正しさと例えているのでしょう。空と海が同化しないように、正しさは一つではない。その境界線であなたは、時に喜び、時に苦しみ、どうしようもない気持ちにさせるかもしれない。けれど、降った雨が大地を巡り海に流れ着くように、いつしかそれは光る欠片となり、前に進む糧となる、そう聞こえました。
この詩が生まれたきっかけは、令和2年のインターハイ(全国高校総体)がコロナウィルス感染防止のために中止になったことらしいです。大会出場を夢見て日々汗を流し、鍛錬して来た選手たちは、何の罪も無い善者達です。しかし、その心根を汲み取りながらも中止を決断せねばならなかった大会関係者も、ギリギリまで苦悩したことでしょう。どちらも悪者でも、愚者でもない。しかしそこに、両者に、正しさがあったと思います。
私は地方でサッカーを撮っています。なので、各種大会の決勝戦を撮りに行きます。「試合を戦う」と言いますが、どちらかが悪いのでもなく、憎いわけでもありません。しかし、勝者は歓喜の声を上げ、敗者は膝を屈し涙します。そんな光景を何度も見てきました。どちらかの夢が叶い、どちらかの夢がついえる瞬間を何度も見てきました。そしてそのどちらも、美しいと思いました。
今年一年を振り返る時期になりました。今年みなさんは自らが正しいと信じ、望み挑んだことが達成できたでしょうか。もしそれができなかったとしても、それが悪行や悪意ではなく、別の正しさ故であるならば、悲観することは無いと思います。それはいつかきっと光って、光って見えると信じるからです。今年一年、このつたないブログにお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。この記事を今年の締めとさせていただきます。来る年が、みなさまの光輝く一年になりますよう、お祈り申し上げます。












nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 0

コメント 2

コメントの受付は締め切りました
トシ

いつも年の最後にご紹介下さる曲を注目しております。
今年はこの曲でしたか。
グサッとくる曲ですよね。
今年一年も、いろいろな話題で楽しませていただきました。
来年もどうかよろしくお願いします!
by トシ (2022-12-30 15:03) 

ジュニアユース

トシさん、コメントありがとうございます。
カラオケにも行かないオンチな私が曲紹介なんて、お恥ずかしいのですが、毎年いろいろ考えて書かせていただいてます。
お気にめしていただいたのなら幸です。
来年もどうかよろしくお願いします。

by ジュニアユース (2022-12-31 13:24)