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「信長」 [本・映画・アニメ・詩歌]

NHKの大河ドラマでは、戦国時代を舞台にした作品が多く、それは視聴者の志向(要するに視聴率)によるものだとか。まあとにかく、日本人はあの動乱の時代が好きということですね。確かに、多くの特徴的な人物が輩出された時期でもあり、物語とするにはネタが豊富。外から見れば日本の内乱期で、多くの人の人命が失われた厳しい時代であったにもかかわらず、それだからこそ力量を発揮できる個人が活躍できた時代、とも言えますね。ただ、昨今は若い世代の戦国武将ブーム向けの漫画が多く書店に並びますが、中には武将をアイドルにしたような、「ちょっと脚色しすぎでしょう」と眉をひそめるものまであるようで。

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さて、そんな戦国時代における中心人物と言えば、織田信長でしょう。これまで多くの本や雑誌、映画、テレビドラマ、そして学校教科書にも登場するのですから、知らない日本人はまず皆無でしょう。そして今回ご紹介するのは、そんな織田信長を描いた漫画、「信長」です。工藤かずや原作、池上遼一作画によって、1986年(昭和61年)10月15日号から1987年(昭和62年)6月15日号まで雑誌掲載され、後に単行本化されました。上の画は、私の手元にある1987~1990年にかけて発刊された初版本全7冊です(私が初版本を購入するのは珍しいことです)。
内容は、史実に近く、昨今のチャラチャラした武将像とは一線を画します。信長の「蘭奢待の切り取り」なんて、よほど歴史に詳しい方しか知らないと思いますし、その信長像も冷酷非道の魔人のようではなく、その言動の裏に人間味を感じさせるものです。これだけ緻密な時代考証の上で忠実に話を運びながらも、物語としての面白さを損なっていないのは、工藤かずや氏の力量に負うところ大なのでしょう。また作画も、「男組」などで知られる池上遼一氏で、歴史絵巻としての重厚さと人物の意気を感じさせ、好感が持てます。
話はちょっとそれますが、ベストセラー小説を原作とした映画は多くありますが、原作を超える評価を得た映画は少ないようです。それは、小説自体は文字のみの情報で、読み手がそれを脳内でイメージ化しているのに対し、映画は映像として目から直接入ってきます。そのギャップ、つまりは読者が抱いている人物像や雰囲気と、実際の人間である役者が演じる演技との差異が、評価を二分することになります。それは実はアニメや漫画も同じで、描き手の作画やカット割り、流れる雰囲気次第で、評価や印象を左右します。原作が漫画で、そのアニメ版の場合は、こうした差異が生じるのが声であることが多いので、その程度なら許容範囲の場合も多いのですが、原作が小説で、そのアニメ版や映画版の場合は、こうした読者(視聴者)に与える違和感が拭えない場合も多いですね。その点でこの「信長」は、成功した一例と私は思っています。
私は第一巻を読んで直ぐに第二巻を買いました。その後、新巻が出るごとに買い足してきて、第七巻まで揃えたところで止まってしまいました。当時、足繁く書店に通ったのに、最後の第八巻がなかなか発行されないのです。後で知ったのですが、「池上遼一氏の作画(新府城と安土城)が、資料とした写真の著作権を侵害している」とされたため、発刊が中止されたようです。最終巻を心待ちにしていた私には、本当に口惜しく、この全七巻が長く私の書棚に並んでいました。ところが2003年(平成13年)から翌年にかけて、問題となった箇所が新たに描き直され、完全版として単行本全八巻が新たに発刊されました。それを知った私は、それまで何度も何度も読み直し、長く書棚に並んでいたせいで日焼けした全七巻に、最終巻を加えるのではなく、新たに発刊された全八巻を買い加えました。楽しみにしていた最終話は、もちろん「本能寺の変」で終わるのですが、明智光秀を恨むことなく、清々しくこの世を去る信長の姿で終わっています。

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各巻9話で構成された全八巻。古い漫画には違いなく、今では作画的に見劣りする部分もありますが、私の中では何度読み直しても飽きません。機会が有れば是非、とお勧めしておきます。あなたの知らない信長の話が、一つはあるかもしれませんから。

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